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【障がい者アート】注目の理由と課題

近年、全国各地で障がい者アートの個展や展示会が開かれたり、コンテストが行われたりするなど、障がいのある人による文化芸術活動が注目を集めています。

障がい者アートは障がいのある人の自己表現の手段であるということだけでなく、作品を販売することで収益を得られることからも、文化芸術と福祉の両方の面で大いに意義のある活動だと言えます。

しかし、障がい者アートは認知度の高まりに伴って、様々な批判や課題点が出てきているのも事実です。この記事では、そんな障がい者アートについて考えていきます。

障がい者アートとは?

その名の通り、障がいのある人が制作したアート作品のことを障がい者アートというのですが、この「アート」は絵画だけを指すわけではなく、音楽・演劇・ダンスなど、そのジャンルは多岐に渡ります。

障害者アートは、作品が持つ強い独創性と、作品の鑑賞を通した多様性理解の促進や作品の販売を通した収益の獲得が可能なことから、芸術的側面と福祉的側面の両方を持つものとして注目されています。

障がい者アートの起源

1945年、フランス人画家のジャン・デュビュッフェが、自身が収集した精神障がい者の作品のコレクションに「生の芸術」を意味する「アール・ブリュット」と名付けたのが障害者アートの起源だと言われています。

デュビュッフェは、精神障がい者や独学者のような「美術の専門教育を受けていない人たち」の作品を、「もっとも純粋で、もっとも無垢な芸術であり、作り手の発想の力のみが生み出すもの」であるとして見出したのです。

その後、1972年にはイギリス美術史家のロジャー・カーディナルによって、「アール・ブリュット」に対応する英語として「アウトサイダー・アート」という言葉が作られました。

「アール・ブリュット」と「アウトサイダーアート」は本質的には同じものを指す言葉ですが、歴史的観点では「アール・ブリュット」は精神障がい者や独学者による作品の中でも、デュビュッフェのコレクションに含まれる作品群のみを指し、それ以外の作品は「アウトサイダーアート」に分類されます。

参考:https://artscape.jp/artscape/reference/artwords/a_j/art_brut.html

日本における障がい者アート

日本で障がい者アートが認知され始めたのは1990年代のことです。中でもその皮切りとなったのが、1993年に世田谷美術館で開催された展覧会「パラレル・ヴィジョンー20世紀美術とアウトサイダー・アート」だと言われています。この展覧会では、アウトサイダーアート125点と20世紀美術75点に加え、日本のアウトサイダーアートも10数点が展示されました。

これら「アウトサイダー」の美術は、クレー、ダリ、エルンスト、デュビュッフェ、ペンク、バゼリッツ、ボルタンスキーなど、20世紀美術の巨匠たちにも大きな刺激を与え、今日の美術の重要な底流を成しています。本展はこの「アウトサイダー」の美術と20世紀美術を並べ、両者のパラレルな関係を比較考察しようとする、世界でも初の試みです。

引用:パラレル・ヴィジョン | 世田谷美術館 SETAGAYA ART MUSEUM

2000年代に入ると障がい者アートはさらに社会的注目を集めるようになり、一般的な美術作品と同じように美術館や画廊、ギャラリー等での展覧会も増えていくことになります。そして2007年には、文部科学省・厚生労働省によって「障害者アート推進のための懇談会」が開催されるまでになりました。

その後も2013年の文化庁・厚生労働省による「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」開催、2015年の同じく文化庁・厚生労働省による「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた障害者の芸術文化振興に関する懇談会」設置など、障がいのある人による文化芸術活動を推進・振興するための取り組みが続けられています。

活動の支援体制

なぜ障がい者アートがここまで社会からの注目を集めるようになったのかを考える上で、障がいのある人の文化芸術活動を支援する人々の存在は欠かせません。

障害者芸術活動普及支援事業

2017年、厚生労働省が「障害者芸術活動普及支援事業」をスタートさせました。この事業は、各都道府県に設置された支援センターを中心に、相談支援・機会創出・人材育成・情報発信の4方向のアプローチで障がいのある人の文化芸術活動の普及を支援しています。当初、支援センターは全国20ヶ所に設置されていましたが、2023年には全国44ヶ所にまでその数を増やしており、最終的には全47都道府県への設置を目指しています。

公式HP:障害者芸術文化活動普及支援事業

静岡県障害文化芸術活動支援センター みらーと

2018年に障害者芸術活動普及支援事業の一環として設置された支援センターで、中部拠点(静岡市)・東部拠点(沼津市)・西部拠点(浜松市)の全3拠点があります。みらーとでは、障がいのある人の文化芸術活動の普及を通じた障がいのある人の社会参加と、障がいや障がいのある人に対する県民の理解促進のために相談窓口を設置したり、展示会や支援人材育成セミナーを開催するなど、県内全域で幅広く事業を展開しています。

公式HP:静岡県障害者文化芸術活動支援センター みらーと

障害者による文化芸術活動の推進に関する法律

2018年6月、障がいのある人による文化芸術活動を推進する施策の実施を通じた、障がい者の個性・能力の発揮や社会参加を促進することを目的として、「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」が公布・施行されました。

さらに2023年3月、文化庁・厚生労働省は「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」の規定に基づき、「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画」を策定しました。

この計画では、「障害者による文化芸術活動の幅広い促進」「障害者による芸術上価値が高い作品等の創造に対する支援の強化」「地域における、障害者の作品等の発表・交流の促進による、心豊かに暮らすことのできる住みよい地域社会の実現」の3つを基本方針に据えていて、障がいの有無にかかわらず、誰もが文化芸術活動に参加できる「誰一人取り残さない社会」の実現を目指しています。

厚生労働省HP:障害者による文化芸術活動の推進に関する法律及び基本的な計画

その他の支援団体

なぜ今、障がい者アートが注目されているのか?

ではなぜ、障がい者アートは今こんなにも社会から注目されているのでしょうか?これについては、主に「作品の独創性」「東京パラリンピック誘致」の2つの要因が考えられます。

作品の独創性

まず、障がい者アート自体が持つ強い独創性が、デュビュッフェに見出されたのをきっかけに、芸術的に評価され始めたことが挙げられます。また、作品そのものだけでなく、作品の制作過程でも障がいがあるからこその試みがなされていることも多く、近年ではそのような制作過程における独自性も注目されています。

2020年東京パラリンピックの誘致

2020年東京パラリンピックの誘致が決定したことによって、日本国内では国民のパラスポーツ(障がい者スポーツ)への関心が大きく高まりました。

その結果、「障がい」そのものへの関心も高まることとなり、文化庁・厚生労働省が東京オリンピック・パラリンピックの開催を契機として、障がい者の文化芸術活動を推進する方針の計画を打ち出したことも相まって、障がい者アートはその認知度を大きく上げることになったのです。

また、文化庁・厚生労働省は、2025年に開催される大阪・関西万博の開催やその後の更なる発展も見通して障がいがある人の文化芸術活動を推進する施策を継続するとしており、障がい者アートの社会的な注目度は今後も高まり続けると考えられます。

参考資料:障害者による文化芸術活動の 推進に関する基本的な計画 (第2期)

障がい者アートの批判や課題

障がい者アートは認知度が上がってきたことに伴って、いくつかの批判や課題もでてきています。そして、それらの点についてはまだ議論の余地が多く残されているのが現状です。

「障がい者」とくくる意味とは?

福祉的な面では、障がい者アートが障がいのある人と社会の架け橋となっていることは疑いようのない事実です。しかし一方で、「芸術作品を作者の障がいのある・なしで区別することに違和感を感じる」という意見も多く見られます。

また、「障がい者アート」とくくってしまうことで、作品を鑑賞する人が「これは障がいのある人が制作した作品なんだ」という先入観を捨てられなくなり、作品を正しく評価できなくなる事を懸念する声もあります。

確かに、本来の「アール・ブリュット」は障がい者の作品のみを指すわけではなく、「美術教育を受けていない人による作品(霊的幻視者、独学者、民族芸術なども含む)」を美術的に評価し、収集したものです。それに対して、日本における「障がい者アート」は、これらのうち「障がい者による」という部分のみを抽出した福祉的要素の強い概念だと言えます。

しかし、障がい者アートの福祉的な社会貢献度や、社会の障がいへの理解度を考えると、福祉的要素を一切排除することも現実的ではありません。アートが障がい者と健常者の垣根を超えるためには、段階的に歩みを進めていく必要があります。

「芸術的価値」の基準

障がいのある人による作品が芸術として評価されるようになったのはごく最近のことです。障害者アートの表現や形態には既存の芸術的価値観を越えたものが多く、そもそも評価が付けられないことがあります。

この課題の解決には、障がい者アートの表現についての研究や議論を重ねた上で新しい評価基準を作り、作品を正しく評価できる人材を育成することが必要です。

作品の権利保護問題

社会の障がいへの理解不足や、障がいのある人は自ら権利を主張するのが困難な場合がある事が原因で、作品の著作権が蔑ろにされる事例が数多く発生してきました。

この問題を解決するために、エイブルアートカンパニーを始めとする支援団体や福祉施設では、障がい者アートの著作権を保護し、利益に繋げる取り組みが行われています。

また、文化庁・厚生労働省も「障害者による文化芸術活動の 推進に関する基本的な計画」の中で、著作権教育の強化や専門家に相談できる環境の整備を通して、作品の権利保護を推進する方針を示しています。

まとめ

  • 障がい者アートとは、障がいのある人が制作した芸術作品(絵画・音楽・演劇ダンスなど)のことで、フランス人画家デビュッフェが収集した作品群「アール・ブリュット」が起源。
  • 文化庁・厚生労働省の「障害者芸術活動普及支援事業」の開始や「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」の制定など、近年では障がい者による文化芸術活動を推進する動きが盛んになってきている。
  • 障がい者アートの作品の強い独創性が評価されたというだけでなく、2020年東京オリンピック・パラリンピックの誘致をきっかけに社会の「障がい」への関心が高まり、認知度が急激に上がった。
  • 障がい者アートには、「障がい者アートというカテゴリーへの違和感」「既存の価値観では評価できない」「著作権の保護」などの課題もある。

いかがだったでしょうか?浜松市にも支援センターの拠点がありますから、この記事を読んで障がい者アートに興味が出たという方は、一度足を運んでみるのもいいかもしれませんね。

では、次回の記事でまたお会いしましょう!

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