障害者就労継続支援事業所において、利用者の創作活動を社会に届ける方法として注目されているのが、サブスクリプション(定額レンタル)型のサービスです。近年、障害者アートや地域の作品を活用した新しい就労支援の形として、全国の事業所や企業から関心が高まっています。
本記事では、サブスクリプション(以下サブスク)型アートレンタルサービスの先進的な取り組み事例を紹介しながら、現状と今後の展望について詳しく解説します。
全国連携型アートレンタル「ART cider」
「ART cider(アートサイダー)」は、広告制作・サブスク事業を展開する株式会社Subschive(神戸市)が、障害者就労支援事業所と連携して立ち上げた全国規模のアートレンタルサービスです。
2025年9月に発表され、障害者就労継続支援A型事業者の株式会社リベラーラ(大阪市中央区、代表取締役社長住吉健太郎)と連携し、新しいアートのレンタルプラットフォーム「ART cider(アートサイダー、以下AC)」の立ち上げを発表しました。
全国連携サブスク型アートレンタルサービス「ART cider(アートサイダー)」が始動
サービス名には「サイダーのようにアートが湧き上がる」という想いが込められており、障害のある方たちの自然な創作意欲を全国に広め、社会に還元することを目的としています。
従来、アウトサイダーアートは地域や事業所ごとに限定されて発表されることが多く、作家の経済的自立や作品の普及が十分に実現できませんでした。ART ciderはこの課題を解消し、障害者アートの価値を広く社会に届けるプラットフォームとして設計されています。
ART cider/アートサイダー
就労継続支援A型事業所 リベラーラ
サービスの特徴と仕組み
ART ciderの大きな特徴は、障害のあるアーティストや就労支援施設の作品を、月額3,000円(税別)から定額でレンタルできることです。
レンタル対象はオフィス、店舗、自宅など幅広く、季節ごとに簡単に入れ替えが可能です。Web上で直感的に検索・選択できるため、企業や個人の利用者にとっても非常に使いやすい設計となっています。
さらに、作品は単なる展示にとどまらず、広告物や営業資料、ノベルティなどへの展開も可能です。企業のブランディングやデザイン経営を支援する仕組みとして、障害者アートの社会的価値と収益性を両立させています。
導入に際しては、参加施設・作家が安心して運用できるように、契約書類、運用マニュアル、作品の梱包・発送手順などを包括的に提供しています。これにより、障害者施設や作家は制作活動に集中しながら、安定的に作品を社会に届けることができます。
東京ムツミ会「プエルト」
同様に注目されているのが、東京都新宿区の就労継続支援B型事業所「プエルト」(東京ムツミ会運営)の取り組みです。2025年10月からスタートしたこのサブスクでは、所属アーティストの作品を企業や個人に貸し出す仕組みを導入しています。
障害者アートを貸し出し サブスクサービスを開始〈東京ムツミ会〉
料金は3カ月あたり、1点1,000円から最大5点3,000円までの定額制を採用。初回3カ月は無料トライアルも提供され、利用者が気軽に試せる工夫がなされています。販売された場合には、作品価格の90%がアーティストに還元され、手数料10%は事業所運営に充てられます。
現在、所属アーティストは8名で、月20点以上の作品が生まれており、創作活動と就労支援を結びつける新しいモデルとして注目されています。
社会福祉法人ムツミ会 プエルト
全国規模での広がりと今後の展望
「ART cider」をはじめとするサブスク型アートレンタルは、単なる作品の展示に留まらず、障害者の経済的自立支援、社会への発信、多様性経営の推進など、幅広い効果が期待されています。今後は以下の展開が見込まれています。
- 障害者アートの全国的な普及と認知拡大
- 施設や作家の安定的な収益確保
- 企業におけるデザイン経営やCSR活動の活性化
- ユーザー参加型のイベントや展示会の開催
- 将来的には著名アーティストの発掘や国際展開
こうした取り組みは、障害者アートを単に「観賞」ではなく、社会と経済をつなぐ価値あるコンテンツとして位置づける動きといえます。また、利用者にとっても作品が社会に届く喜びと収益機会が生まれ、創作活動へのモチベーション向上にもつながります。
おわりに
全国規模のサブスク型アートレンタルは、障害者アートを社会に広め、就労支援と創作活動を両立させる新しい仕組みとして注目されています。
「ART cider」や東京ムツミ会「プエルト」の事例は、障害者支援施設と企業が協働し、創造の力を社会に還元できるモデルとして、今後ますます広がることが期待されます。
就労継続支援事業所におけるサブスク導入は、創作の喜びを支援者と利用者、社会全体が共有する未来に向けた第一歩です。これからの発展が非常に楽しみな取り組みといえるでしょう。
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