2021年の東京オリンピック開催をきっかけに、国内では障がい者スポーツが注目を集めています。
障がい者スポーツとは、ルールや使用器具などに障がいを抱えていてもプレイできるような工夫を施したスポーツです。
本記事では、障がい者スポーツの歴史の解説をするほか、人気競技4種類とそのルールも紹介します。
目次
障がい者スポーツの歴史
障がい者スポーツの起源
障がい者スポーツの歴史の原点は、第二次世界大戦中の1944年までさかのぼります。
当時のイギリス首相チャーチルらは、戦争の激化によって脊髄損傷になる兵士が急増することを危惧していました。
その対策として、ロンドンのストーク・マンデビル病院内に脊髄損傷科を開設し、治療法としてスポーツを取り入れました。
今でこそパラリンピックのような世界大会が開かれるまでの規模になった障がい者スポーツですが、もとは病院のリハビリの一環だったのです。
パラリンピックの歴史
1948年7月、ストーク・マンデビル病院脊髄損傷科長だったグットマン博士は、ロンドンオリンピックの開会式の日に合わせて病院内でアーチェリー大会を開催します。
この院内大会がパラリンピックの起源となり、1952年にはオランダの参加を得たことで、国際ストーク・マンデビル大会へと発展しました。
国際ストーク・マンデビル大会は毎年行われることになり、1960年には、イギリス・オランダ・ベルギー・イタリア・フランスの5ヵ国により国際ストーク・マンデビル大会委員会(ISMCG)が設立されました。
ISMCGは、オリンピック開催年の大会はオリンピック開催国でオリンピック終了後に実施する意向を示しました。
これにより、同年の国際大会はオリンピックが行われたローマでの開催となり、世界23ヵ国から400人の選手が参加しました。
現在では、このローマ大会が第1回パラリンピックと位置付けられています。
日本パラリンピック委員会|パラリンピックとは|パラリンピックの歴史
日本国内における障がい者スポーツ
障害者スポーツが日本国内で注目を集めるきっかけになったのは、1964年開催の東京パラリンピックでした。
東京パラリンピックは、今までの「車いす使用者」という制限を撤廃し、全ての身体障がい者が参加できる初めての大会であり、パラリンピックという名称が初めて使われた大会でもありました。
東京パラリンピックで競技に臨む各国の選手の姿に多くの人が感化され、日本でも障がい者スポーツを盛んにしていこうという動きが高まりました。
その一例として、翌年以降は国民体育大会(現在の国民スポーツ大会)の開催地で障がい者のスポーツ大会(現在の全国障害者スポーツ大会)が行われるようになりました。
また、1993年制定の障害者基本法第25条でも、障がい者スポーツの振興について触れられています。
引用:・障害者基本法(◆昭和45年05月21日法律第84号)(文化的諸条件の整備等)
第二十五条 国及び地方公共団体は、障害者が円滑に文化芸術活動、スポーツ又はレクリエーションを行うことができるようにするため、施設、設備その他の諸条件の整備、文化芸術、スポーツ等に関する活動の助成その他必要な施策を講じなければならない。
障害者基本法については別の記事で詳しく解説しています。
おすすめ記事:障害者基本法と障がい福祉
さらに、1998年開催の長野パラリンピック冬季大会では、日本選手団の活躍が大きく注目を浴びました。
その結果、障がい者スポーツの国民からの認知度はさらに高まり、これ以降の障がい者スポーツは「訓練やリハビリの延長」から健常者がしているものと同じ「スポーツ」として認識されるようになっていきます。
そして現在、障がい者スポーツはノーマライゼーション社会の構築や、障がい者の社会参加と自立において大きな役割を果たしています。
人気競技4選
競技としては車いすアーチェリーから始まった障がい者スポーツですが、2024年のパラリンピックでは22の競技が行われました。
また、2026年開催のミラノ・コルティナダッペンツォ冬季パラリンピックでは6競技が行われます。
今回はこれら28競技の中でも、特に人気の高い4競技を紹介します。
車いすバスケットボール
1946年にグッドマン博士が脊髄損傷患者の治療の一環として取り入れた車いすポロやネットボールが、バスケットボールの流行とともに競技化したのが車いすバスケットボールです。
車いすバスケットボールは1チーム5人ずつで行う競技です。
試合は10分のピリオドを4回行い、最終的に点数が高かったチームの勝ちとなります。
ここまでは通常のバスケットボールと変わりませんが、違う点もいくつかあります。
まず、当然ですが選手は車いすを使用してプレイすることになります。
そのため、バスケットボールの技術や基礎体力に加えて、車いすの操作技術も高度なものが求められます。
ルールの面でも大きな違いが3つあります。
ルールの違いの1つ目が、トラヴェリングの裁定です。
通常のバスケットボールでは、ボールを持った状態で3歩以上歩くとトラヴェリングとなりますが、車いすバスケットボールでは、ボールを持った状態で3回以上プッシュ(車いすを手で漕ぐ)するとトラヴェリングとなります。
2つ目の違いは、ダブルドリブルが適応されないことです。
ダブルドリブルとは、一度ドリブルを止めたあとに再びドリブルをすることです。
しかし、車いすバスケットボールのルールでは、一度ドリブルを止めても2プッシュ以内でドリブルを始めればよいということになっています。
この動作は何度でも行うことができます。
これは、車いすは一度止まると動き出すのが困難で、さらに障がいによっては体の向きを変えるのが困難な選手もいるためです。
そして3つ目のルールの違いが、選手が障がいの程度によってクラス分けされていることです。
この「クラス」には、それぞれ持ち点(1〜4.5点)が付与されており、障がいが軽いほど持ち点が増えて行きます。
この持ち点が同試合に作用するのかというと、車いすバスケットボールには、コートに入る5人の持ち点の合計が14点を超えてはいけないというルールがあります。
このルールがあることで障がいの軽い選手だけでプレイすることができなくなり、競技の公平性が保たれるだけでなく、持ち点の配分という新たな戦略性をも生み出しています。
ボッチャ
ボッチャは重度脳性麻痺者や四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツで、1988年のソウルパラリンピックから公式競技になっています。
ちなみに、ボッチャ(Boccia)の語源はイタリアのボール(Bocce)から来ています。
ボッチャは赤チーム(先攻)と青チーム(後攻)に分かれてプレイします。
両チームが1エンドにつきボールを6球ずつ投げ、最終的に得点の高い方が勝ちです。
個人戦は6エンド、ペア戦と団体戦(3対3)は4エンド行います。
得点の付け方は、各エンドの初めに先攻チームがジャックボール(白いボール)を投げ、全てのボールを投げ切った時点で、ジャックボールに最も近い相手チームのボールよりも近くにある自分チームのボール1つにつき1点となります。
ボッチャは障がいの有無や年齢性別関係なくだれでも楽しむことができ、ルールも簡単ですが、多種多様な戦略やテクニックがあるとても奥深いスポーツです。
中でも代表的なものを5つ紹介します。
- アプローチ
直接自分のチームのボールをジャックボールに近づける技です。
ボッチャの基本となる投げ方です。
- プッシュ
自分のチームのボールを押してジャックボールに近づける技です。
- ヒット
相手チームのボールを弾く技です。
正確に相手のボールに当てるだけでなく、しっかりとボールを弾けるだけのパワーが求められます。
- ライジング
ボールの上にボールを乗せる技です。
ジャックボールの周りにボールが密集していて直接狙うことができない場合に使います。
- ロビングボール
ボールを転がさずに上から直接ボールを当てる技です。
ボッチャ競技の中でも特に難しいと言われている技で、成功させるためには非常に高度な投てき技術が必要です。
これらのテクニックを状況に応じて使い分けて戦略を組み立て、勝利を目指します。
参考:ボッチャルール | JAPAN BOCCIA CLUB
シッティングバレーボール
シッティングバレーボールは1956年にオランダで考案されたスポーツで、1980年にパラリンピックの公式競技になりました。
基本的なルールは通常の6人制バレーボールと同じラリーポイント制で、3セット先取の5セットマッチです。
1チーム6人の選手がコートに入り、前後衛3人ずつにわかれてプレイします。
シッティングバレーボールの一番の特徴は、ほぼ常にお尻を地面につけたままプレイしなければいけないことです。
そのため、移動・サーブ・スパイク・ブロックの際にお尻が地面から離れると反則となってしまいます。
唯一レシーブをする時に、一瞬だけ地面からお尻を離すことができます。
また、その他の通常のバレーボールとの違いとしては、ネットの高さやサーブをブロックすることが認められていることなどが挙げられます。
参考:シッティングバレーボール | 競技紹介 | パラスポーツスタートガイド
車いすテニス
車いすテニスは1976年にアメリカの元アクロバットスキー選手のブラッド・パークスがスキー事故によって下半身不随になり、車いすに乗ってテニスをしたことで生まれたスポーツです。
車いすテニスでは、ラケット・ボール・テニスコートは全て一般的なテニスと同じものを使います。
試合は2セット先取の3セットマッチで行い、ルールもほとんど変わりません。
しかし、一般的なテニスでは打ち返されたボールは1バウンド以内で返さなければいけないのに対して、車いすテニスでは2バウンド以内で返せればよいことになっています。
また、1バウンド目がコート内に入っていれば、2バウンド目はコートの外に出てもかまいません。
速く移動するために選手が使用する車いすが競技用のものになっていたり、障がいの程度によっては電動車いすの使用やテーピングによるラケットの固定が認められていたりと、選手ごとの使用器具の違いにも注目です。
参考:車いすテニス | 競技紹介 | パラスポーツスタートガイド
まとめ
- 障がい者スポーツのルーツは、第二次世界大戦で脊髄損傷になった退役軍人のリハビリのために取り入れられたアクティビティである。
- パラリンピックは1948年のロンドンオリンピックに合わせてストーク・マンデビル病院内で車いすアーチェリー大会が行われたのが始まりで、1960年にローマで行われた国際大会が第一回パラリンピックと位置づけられている。
- パラリンピック公式競技28個の中でも特に人気が高いのは、車いすバスケットボール・ボッチャ・シッティングバレーボール・車いすテニスの4つである。
- それぞれの競技で障がいを抱えていても楽しめるよう、ルールや器具に様々な工夫がされている。
いかがだったでしょうか?
障がい者スポーツは「障がい者」の名こそ冠していますが、どれも障がいの有無や年齢性別を超えて誰でも楽しめるものになっています。
メジャーサポートサービスにも、障がい者スポーツをされている利用者さんがいらっしゃいます。
この記事を読むことで少しでも障がい者スポーツに興味を持っていただけたのなら幸いです。
では、次回の記事でまたお会いしましょう!