今回は障害福祉サービスの中でもとても重要な「施設外就労」についてご紹介します。
障害のある方々が社会に参加し、実際の職場で仕事を経験することで、将来的な自立や就労につながる支援の一つとして、施設外就労は注目されています。
とはいえ、その制度や運用には知っておくべきポイントや課題もあります。
この記事では、制度の概要から最新の制度変更、利用時の注意点まで解説します。
施設外就労とは?
施設外就労とは、障害を持つ利用者が就労継続支援事業所に通いながら、実際の企業や地域社会で働くことを指します。施設内での作業訓練にとどまらず、外の環境で職場体験をすることで、実務能力や社会性を身につけることができるのが大きな特徴です。例えば、工場での軽作業、店舗での販売補助、オフィスでの簡単な事務作業など、地域の多様な事業所で実践的な仕事を体験します。

(写真 Canva)
このような実践的な経験は、単に作業を覚えるだけでなく、社会でのルールやコミュニケーションの取り方を学ぶ貴重な機会となります。将来の就労や自立生活に向けた第一歩として、多くの利用者にとって欠かせない支援です。
「施設内就労」や「一般就労」の違いとは?
施設外就労を正しく理解するためには、それが「施設内就労」や一般企業での就労(=一般就労)とどう異なるのかを知っておくことも重要です。
- 施設外就労は、地域の企業や店舗に出向いて働くため、より実社会に近い環境での経験が得られます。実際の職場に近い場所での業務を通じて、社会性や職業意識の向上が期待できます。
- 施設内就労は、就労支援事業所の建物の中で行う作業を指します。封入作業や内職的な業務が多く、支援者の目が届きやすい安全な環境でスキルを身につけることが目的です。多くの事業所では、この施設内就労が中心となっています。
- 一方で、一般就労は福祉サービスを受けずに企業で直接雇用される形です。一般的な労働条件や責任が伴い、障害者雇用としての配慮はあるものの、基本的には健常者と同じような職場環境で働くことになります。
つまり、施設外就労は「福祉サービスの支援を受けながら、実社会への橋渡しを行う中間的なステップ」であり、施設内よりも実践的で、一般就労よりも支援が手厚い形と言えます。
実例に見る進化する施設外就労:アニメ制作現場での支援
2025年、高円寺に開設のB型事業所「Shake Hands(シェイクハンズ)」は、商業アニメを一貫制作できる就労支援施設として注目を集めています。ここでは、精神・発達障害のある方が、アニメの作画・編集・3DCGなどのクリエイティブ業務に実際に取り組める「施設外就労」が展開されます。
商業作品の実務に参加できる点は大きな特徴で、このような例は、従来の施設外就労の枠を超え、「得意」や「夢」を活かした就労支援の新しい形を提示していると言えるでしょう。
日本初、商業アニメを一貫制作できる就労支援「Shake Hands」が東京・高円寺で施設外就労を開始
施設外就労の目的と特徴
- 実践的な職業経験の習得
施設内だけの訓練では得られない、実際の職場環境での経験ができます。作業スキルはもちろん、職場でのマナーや人間関係の築き方を体感しながら学べるため、就労準備に役立ちます。 - 地域社会とのつながり強化
障害のある方が地域の企業や団体に出向くことで、社会的な孤立を防ぎ、コミュニティの一員としての自覚や自信を育てます。地域の方々との交流は、利用者のモチベーションアップや精神的な支えにもつながります。 - 自立就労へのステップ
将来的に一般就労や独立した生活を目指す利用者にとって、施設外就労は職業意識や勤務態度を学ぶ重要なステップです。仕事を通じて得た経験やスキルは、その後の就職活動や職場適応に大いに役立ちます。
施設外就労の仕組みと種類
施設外就労は、主に就労継続支援A型とB型の二つの支援形態で提供されています。
- 就労継続支援A型
この形態は、利用者が労働契約を結び、給与を受け取ることができるのが特徴です。社会保険への加入も可能で、一般企業に近い環境での就労体験ができます。より実務的で継続的な支援が行われるため、将来的な正社員や契約社員への道を意識した支援が期待されます。 - 就労継続支援B型
こちらは、労働契約を結ばずに支援が提供され、主に作業訓練や社会参加の促進を目的としています。職業意識の育成や社会との接点を持つことに意義があり、利用者のペースに合わせた支援が行われるのも特徴です。前述の「Shake Hands」もB型に該当し、内容は非常に実践的です。
施設外就労のメリット
施設外就労の最大の魅力は、実際の社会や職場での経験を積めることです。これにより、単なる訓練では身につかない多様なスキルが養われます。
- 仕事の実務能力が向上
実際に商品を扱ったり、顧客と接したりすることで、細かな作業能力や責任感が育ちます。 - 社会的スキルの向上
職場でのコミュニケーションやチームワークを体験し、対人関係のコツを身につけることができます。 - 自立と自信の獲得
社会の一員として働く実感が、自立への意欲や自信を高め、より積極的な生活参加を促します。
注意したいポイント
一方で、施設外就労には注意が必要な点もあります。特に、最近は不正な加算算定や支援の質の低下を防ぐための監視が強化されています。
- 経営実態のない企業での就労は算定不可
厚生労働省は、障害福祉サービスの施設外就労において、実際に経営実態のない企業での作業を行った場合、基本報酬の算定は認められないと明確に示しています。これは、ほとんど名義だけの経営実態のない企業に利用者を送ることで実際の職業経験が得られず、制度の趣旨に反するためです。
障害福祉の施設外就労、経営実態ない所なら算定不可 - 支援内容の質が適切であるか
施設外就労を行う際、支援の目的・成果が不明確な場合には、その支援の質が適切であるかどうか疑問が残ります。
以前は「施設外就労実施報告書」を自治体へ提出する必要がありましたが、令和6年(2024年)4月1日付でこの提出は廃止されました。
ただし、事業所において実績記録書類を作成・保存する義務があります。実績記録には、就労先の企業ごとに、作業日・作業時間・作業内容など契約内容を整理し、同行する支援者のシフト表なども記載する必要があります。
就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について(PDF)
施設外での活動であっても、支援内容や成果を丁寧に記録し、適切に保存・管理することで、利用者の状況に応じた支援の質を維持することが求められます。 - 最新の制度や加算ルール等の理解
令和3年(2021年)度の障害福祉サービス等報酬改定により「施設外就労加算」は廃止されましたが、施設外就労自体は継続しています。最新の制度や報酬ルールを理解し、適正な支援が行われているか注目しましょう。
令和6年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.8(厚生労働省)
施設外就労のルールとは?施設外支援との違いから加算の算定方法まで詳しく解説
まとめ:施設外就労を有効に活用するために
施設外就労は、障害のある方が社会の一員として実際の仕事に携わることで、自己肯定感や社会性、そして就労意欲を育てる極めて重要な支援制度です。福祉と就労の橋渡しとして大きな役割を果たしており、単なる「作業訓練」にとどまらず、本人の人生に深く関わる支援の形でもあります。

(写真 Canva)
しかしながら、制度の拡充とともに、形式的な運用や名義貸しのような不適切なケースも一部で問題視されており、今後は「支援の中身」こそが問われる時代になってきました。どこで、誰と、何を目的に働くのか。そのプロセスが本人の成長にどうつながるのか。支援事業所や地域社会には、その問いに真正面から向き合う姿勢が求められています。
そうしたなかで、「Shake Hands」のように、利用者一人ひとりの“得意”や“好き”を尊重し、商業作品という実際のアウトプットに結びつける支援のあり方は、これからの福祉事業の理想像を示しているといえるでしょう。
福祉の現場は“守る”だけの場所ではなく、“可能性を広げる”場所へと変化しています。制度の目的や支援の実態を丁寧に見極めながら、施設外就労を単なる制度利用で終わらせるのではなく、一人ひとりにとって意味のある「生きた経験」として積み上げていくことが、私たち全体に求められている姿勢です。
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