今回から、『法律から見る障がい者にとって「理想の職場」とは?』というテーマで、4回にわたって記事を書いていきます。このシリーズを通して、障がいのある方に「ホワイトな職場」の指標を示すことで、少しでもあなたの職場探しの助けになれればと思います。
シリーズ第1弾となる本記事では、障害者雇用促進法と法定雇用率について解説します。
一企業の障がい者の雇用率が高ければ、それはある意味では「障がいに理解のある職場」と言えるはずです。もちろんそのような「理解のある職場」を見極める方法についても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
障害者雇用促進法とは?
障害者雇用促進法は、1987年に前身である身体障害者雇用促進法(1960)が改正されてできた法律です。障がい者の社会的な自立を促進するための施策の実施を通して、障がい者の職業の安定を図ることを目的としています。
参考サイト:障害者の雇用の促進等に関する法律 | e-Gov 法令検索
概要
- 職業リハビリテーションの推進
「第二章」では、ハローワークにおける職業紹介と条件指導の実施や、障害者職業センターでの適性検査と職業訓練の実施など、障がい者の職業リハビリテーションの推進に関することが定められています。
- 障がい者に対する差別の禁止
「第二章の二」では、障害者に対する差別の禁止に関することが定められていて、障がいがあることを理由に、機会の均等や平等な待遇(賃金・教育訓練・福利厚生など)が脅かされてはいけないとされています。
また、上記のような機会の均等と平等な待遇の確保のために、障がい者の特性に配慮した措置(合理的配慮)の実施義務も定められています。
- 障がい者の雇用義務等に基づく雇用の促進
「第三章」では、障がい者の雇用義務に関することが定められていて、国と地方の機関及び事業主は、障がいのある労働者数が、厚生労働省が定める「法定雇用障害者数」以上にならなければいけないことになっています。
また、「第三章第二節」では、障がい者の雇用数が基準を超過している場合や、逆に基準に満たない場合の措置について定められています。
- 紛争の解決
「第三章の二」の内容によると、事業主は障がいのある労働者からの苦情については自主的な解決に努めなければなりません。
また、必要に応じて都道府県労働局長の支援(助言・指導・勧告)や紛争調整委員会による調停が行われることになっています。
法改正の経緯
障害者雇用促進法は、もともとは身体障害者雇用促進法という名前でした。当初は名前の通り障がいの中でも身体障がい者のみが対象の法律でしたが、1987年に名称が変更されたことで知的障がい者もその対象に加わりました。
法律の名称変更に至るまでの詳しい時代背景については前回の記事にて詳しく解説していますので、そちらもぜひご覧ください。
前回:障害者基本法と障がい福祉
その後も、2008年・2013年・2018年・2022年の4回にわたってさらなる法改正が行われています。
2008年の改正では、「障害者雇用納付金制度」の適用範囲が、労働者が100人を超える中小企業も含むように拡大され、短時間労働者(週20〜30h)も雇用義務の対象となりました。
2013年の改正では、障がい者に対する差別を禁止する条文の追加と、合理的配慮の義務化がされました。
そして、2018年の改正では、週の勤務時間が20時間未満の障がい者を雇用した事業主に対する給付金が新設され、精神障がい者も雇用義務の対象に加わっています。
さらに、2022年の改正で短時間労働者に週の勤務時間が「10h以上20h未満」の枠が新たに設けられました。これは、重度身体・知的障がいと精神障がいのみに適用されるもので、障がい特性によって短時間での労働なら可能な人の雇用を促進するための措置です。
また、法定雇用率も年々段階的な引き上げが続いており、今後も障がい者の雇用は増え続ける見込みです。
法定雇用率とは?
厚生労働省では、障がい者の雇用の促進と安定を図るために、法定雇用率(全従業員のうち、障がいを持つ従業員が占める割合の最低ライン)を定めています。2024年11月現在、民間企業の法定雇用率は2.5%であり、2026年には2.7%まで引き上げられる予定です。
障害者雇用納付金制度
障害者雇用納付金制度は、障がい者の雇用の促進と安定を図るとともに、障がい者を多く雇用している事業主の経済的負担を軽減するための制度です。
この制度の対象は労働者が100人を超える企業のうち、法定雇用率を達成していない企業は、障がい者の雇用が1人不足しているごとに月5万円の納付金を納める必要があります。
逆に、法定雇用率を超えて障がい者を雇用している企業には、超過人数や雇用している障がい者の条件に応じて調整金という形で各種報奨金や給付金が支給されます。
例えば、総従業員数が240人で、うち3人が身体・知的障がい者(週30h以上)、2人が短時間労働(週10h以上20h未満)の精神障がい者のA社があるとします。
2024年11月現在の法定雇用率は2.5%ですから、A社の法定雇用障害者数は、
総従業員数×法定雇用率=240×0.025=6
となります。
対して、A社の実際の雇用障害者数は、身体・知的障がい者(週30h以上)が計3人(3カウント)と短時間労働(週10h以上20h未満)の精神障がい者が2人(1カウント)の合計4カウントです。
雇用率制度における算定方法
30h以上 | 20h以上30h未満 | 10h以上20h未満 | |
身体障がい者 | 1 (重度の場合2) | 0.5 (重度の場合1) | ー (重度の場合0.5) |
知的障がい者 | 1 (重度の場合2) | 0.5 (重度の場合1) | ー (重度の場合0.5) |
精神障がい者 | 1 | 0.5* | 0.5 |
*当面の間は1カウントとする措置が取られています。
つまり、A社の雇用障害者数は法定雇用障害者数に2人不足しているため、月10万円の納付金を納めることになります。
なお、納付金は調整金の財源に充てられます。
企業が法定雇用率を達成しているか確認する方法
では、障がい者を積極的に雇用している企業はどのようにして見つけていけば良いのでしょうか?
方法は主に2つあります。1つは、「もにす認定」を受けている企業を探す方法です。もにす認定は、その企業における障がい者の雇用の促進・安定のための取り組みの実施状況が優良な場合に、厚生労働大臣から認定されます。
もにす認定を受けるための条件はいくつかありますが、その中には当然「法定雇用率を達成している事」も含まれています。
したがって、もにす認定を受けている企業では、障がい者が働きやすい環境が整っている可能性が高いです。
もう1つは、法定雇用率を達成しておらず、尚且つ雇用状況の改善が見られないとして公表されている企業を避ける方法です。
障害者雇用促進法では、障がい者の雇用の促進が必要であると認められた事業主は、障がい者の雇用に関する計画書を厚生労働大臣に提出しなければならないと決められています。
そして、この計画書を提出しなかったり、計画書が不適当であるという勧告を無視した場合には企業名を公開してもよいということになっています。
これによって名前が公表されている企業は、「障がい者への理解がない職場」と言えますから、就職先を探す際には避けるのが良いでしょう。
まとめ
- 障害者雇用促進法(1987)は、身体障害者雇用促進法(1960)が改正されてできた法律で、障がい者の雇用の促進と安定を目的としている。
- 障害者雇用促進法では、職業リハビリテーションの推進・障がい者に対する差別の禁止・障がい者の雇用義務・紛争の解決などについて定められている。
- 障害者雇用促進法は、1987年以降も何度も改正されている。主な変更点としては、精神障がい者や短時間労働の障がい者が雇用義務の対象に加わり、合理的配慮が義務化された。また、法定雇用率の段階的な引き上げが続いている。
- 法定雇用率とは、「全従業員のうち、障がいを持つ従業員が占める割合の最低ライン」のことであり、これを達成していない場合、1人不足するごとに5万円の納付金を納めなくてはならない。この仕組みを、障害者雇用納付金制度という。
- 障がいに理解のある職場を探したい時には、「もにす認定」を受けている企業や、障がい者の雇用状況が悪いとして名前が公表されている企業をチェックするとよい。
いかがだったでしょうか?
近年、短時間であれば働ける精神障がい者にも焦点が当てられているというのはとてもいい兆候だと思いますし、実際にこれによって助けられる人も多いでしょう。
障がい者雇用は年々増え続けていますから、これから先、もっと障がい者でも活躍できる社会になっていくといいですね。
次回は、「障害者差別解消法と合理的配慮」について解説します。
では、次回の記事でまたお会いしましょう!