私たちが普段何気なく利用している障がい福祉には、どんなものにもしっかりと法的根拠が存在します。障がいに関する法律はいくつもありますが、中でもたくさんの障がい福祉制度と密接に繋がっているのが、「障害者基本法」です。本記事では、障害者基本法の成り立ちと、障がい福祉制度との関係性について解説します。
法律の話なので、難しい・お堅いと言ったイメージがあると思いますが、できる限りわかりやすく説明していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
障害者基本法とは
障害者基本法は、1970年に制定された「心身障害者対策基本法」が1993年に改定されたものです。
第一条に
この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、(中略)相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、(中略)障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。
とあるように、障害者基本法では障がい者支援を通して、障がいの有無にかかわらずお互いを尊重し合える社会を実現することを目的としています。
なお、この法律は1993年の改定以降もさらなる改正が行われた結果、現在の形となっています。
制定・改定の経緯と時代背景
戦前~1960年代の障がい福祉
戦前の日本では、障がい者は特に福祉の対象というわけではなく、特に精神障がい者についてはむしろ単なる異常者であり、公安による取り締まりの対象という位置づけでした。
戦後になると、日本はGHQの指示の下で社会福祉の基盤を固めていくことになるのですが、そんな中起きたのがライシャワー事件(1964)でした。
米国駐在大使のライシャワーが日本人青年によって刺傷されたこの事件は、犯人の青年に精神科治療歴があったことで、「精神障がい者野放し論」に火をつけました。
その結果、日本の障がい福祉施策は、障がい者の保護や収容に重きを置く方向へと舵を切ることになります。
心身障害者対策基本法の制定
1970年、我が国では心身障害者対策基本法が制定されました。ライシャワー事件の煽りを受けてか、この法律における「障がい」とは、身体障がい・精神障がい・知的障がいの三障がいのうち、身体障がいと知的障がいのみを指しており、精神障がいは除外されていました。
また、この法律の目的は発生の予防や施設収容等の保護に偏ったものでした。これはノーマライゼーション(障がい者を社会から排除するのではなく、健常者と同じように生活できるように支援すること)が広がりつつある当時の世界の動向とは完全に逆行しており、日本の精神医療は閉鎖的収容主義的であるとして、国際世論からの激しい批判を受けました。
なお、ノーマライゼーションについてはこちらの記事の中で詳しく解説していますので、こちらもぜひご覧ください。
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障害者基本法への改定
しかし、1980年代に入ると、日本の障がい福祉施策にも転機が訪れます。国連総会は1981年を「国際障害年(IYDP)」であると宣言しました。IYDPは、「完全参加と平等」をテーマに掲げ、障がい者のリハビリテーションと社会参加の推進を目的とした試みでした。
その後も、国連が1982年に「障害者に関する世界行動計画」を採択したり、同計画の推進期間として、1983年〜1992年を「国連・障害者の10年」に定めるなど、障がい福祉が国際社会全体から大きな注目を浴びました。
その結果、日本でも「障害者対策に関する長期計画」が作成され、さまざまな取り組みが行われるとともに、ようやくノーマライゼーションの理念が普及したのでした。
そして1993年、心身障害者対策基本法は障害者基本法へ改定されました。これにより、精神障がいも「障がい」として定義されるようになり、三障がいの統一が図られました。また、法律の主目的も障がい者の自立や社会参加の実現に変更されました。
障害者基本法のその後
1993年の改定以降、障害基本法は二度にわたる改正を経て、現在の形となっています。
一度目の改正は2004年に行われました。これは、障がい者の自立と社会参加の実現を実質的なものにするとともに、1993年の改定からの11年間での、障がい者をとりまく社会経済の情勢変化に対応するためのものでした。
この改正では、障がい者への差別を禁止する条文の追加、障害者の日(12月9日)の障害者週間(12月3日~12月9日)への拡大、障害者計画の策定義務化などが主な変更点となりました。
二度目の改正は2011年に行われ、法の目的が障がい者のより主体的な社会参加を推進するためのものになったり、発達障害が精神障がいの定義に追加されるなどの変更がありました。
第2編 全般的推進状況(平成24年度を中心とした障害者施策の取組)
障がい福祉制度との関係性
ここからは、具体的に障害者基本法がどのように障がい福祉制度と繋がっているのかを解説していきます。
差別の禁止
何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。(第四条)
第四条では、障がいがあることを理由とした差別を禁止するとともに、障がい者に対する合理的配慮を義務付けています。このことについてより詳細に明文化されている法律が、「障害者差別解消法」です。
年金等の支援
国及び地方公共団体は、障害者の自立及び生活の安定に資するため、年金、手当等の制度に関し必要な施策を講じなければならない。(第十五条)
第十五条では、障がい者を対象として、年金や手当などの金銭面でのサポートをする制度を実施しなければならないことが定められていて、これにより実施されている制度が「障害年金」です。
障害年金については別の記事で解説していますので、ぜひそちらもご覧ください。
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職業相談・雇用の促進
国及び地方公共団体は、(中略)障害者の多様な就業の機会を確保するよう努めるとともに、個々の障害者の特性に配慮した職業相談、職業指導、職業訓練及び職業紹介の実施その他必要な施策を講じなければならない。(第十八条)
第十八条では、障がい者を対象とした職業相談・職業指導・職業訓練及び職業紹介の実施が義務付けられています。つまり、私たちメジャーサポートサービス浜松のような「就労継続支援事業所」や、「就労移行支援事業所」の開設には、この条文の効力が働いていることになります。
就労継続支援事業や就労移行支援事業所について解説している記事もありますので、ぜひご覧ください。
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国及び地方公共団体は、国及び地方公共団体並びに事業者における障害者の雇用を促進するため、障害者の優先雇用その他の施策を講じなければならない。(第十九条)
また、第十九条では、障がい者を優先的に雇用する取り組み(障がい者枠での雇用など)の実施が義務付けられており、その達成のためにより詳細な取り決めがされている法律が、「障害者雇用促進法」です。
相談等
国及び地方公共団体は、(中略)障害者及びその家族その他の関係者に対する相談業務、成年後見制度その他の障害者の権利利益の保護等のための施策又は制度が、適切に行われ又は広く利用されるようにしなければならない。(第二十三条)
第二十三条では、障がい者本人とその家族などの関係者に対する相談業務や、成年後見制度などの障がい者の権利や利益を守るための施策の実施が義務付けられています。
これらのうち、障がい者を対象にした相談業務を担っているのが、「相談支援事業所」です。相談支援事業所についても別の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
関連記事:相談支援事業所とは?
経済的負担の軽減
国及び地方公共団体は、障害者及び障害者を扶養する者の経済的負担の軽減を図り、又は障害者の自立の促進を図るため、税制上の措置、公共的施設の利用料等の減免その他必要な施策を講じなければならない。(第二十四条)
第二十四条では、障がい者とその扶養者の経済的負担の軽減を図らなければならないことになっています。そのための制度としては、所得税の障害者控除、自立支援医療制度、障がい者割引などがあります。
自立支援医療制度と障がい者割引について解説している記事がありますので、ぜひご覧ください。
また、これらの制度を利用するためには、いずれも障害者手帳の取得が必要です。障害者手帳のことについて知りたい方は、下記の記事もぜひご覧ください。
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文化的諸条件の整備
国及び地方公共団体は、障害者が円滑に文化芸術活動、スポーツ又はレクリエーションを行うことができるようにするため、施設、設備その他の諸条件の整備、文化芸術、スポーツ等に関する活動の助成その他必要な施策を講じなければならない。(第二十五条)
そして、第二十五条では、障がい者がスポーツや文化芸術活動を行える環境の整備が義務付けられており、これに起因する様々な取り組みによって、近年ではパラスポーツや障がい者アートが社会的に注目を集めています。
下記の記事で障がい者アートについて詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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まとめ
- 障害者基本法は、1993年に心身障害者対策基本法を改定する形でできた法律で、障がい者の自立・社会参加と、障がいの有無で差別せずにお互いを尊重しあえる社会の実現を目標としている。
- 障害者基本法の前身である心身障害者対策基本法は、1970年に制定された法律で、当初の目的は障がい発生の予防や施設収容等の保護に偏ったものであり、さらに精神障がいは「障がい」の定義から外されていた。
- 1981年から1992年にかけて、国連を中心に、障がい福祉を見直し充実させる国際規模での動きがあり、日本にもノーマライゼーションの理念が普及した。その結果、心身障害者基本法を障害者基本に改定するに至った。
- 障害者基本法は、1993年の改定以降も2004年と2011年に法改正が行われ、現在の形となった。
- 障害者基本法は、様々な障がい福祉制度や他の法律とも密接に結びついている。
いかがだったでしょうか?障害者基本法がいかに障がい福祉の基盤として重要な役割を果たしているかがおわかりいただけたと思います。
次回からは、『法律から見る障がい者にとって「理想の職場」とは?』と題しまして、4回にわたって、障がいのある方が就職先を探す際の「ホワイト」の指標を探っていきたいと思います。
法律シリーズ:障害者雇用促進法と法定雇用率
では、次回の記事でまたお会いしましょう!